SBIホールディングス特別対談企画!!【混迷を極める世界経済、今後の見通しとその処方箋】 武者陵司

第1回

証券 >> ALL証券比較サイト運営者  /  武者 >> 武者陵司
証券 :
では、宜しくお願いします。
さて日経平均は現在1万円割れの後膠着してます。海外含めて非常にマーケットが不安定な現状と思われます。
また昨年わが国では政権交代が起こりました。鳩山政権は何も日本が貢献できる材料が無い中、対等で緊密な日米関係を打ち出してますが、アジア極東〜中央アジアではところどころで軍事緊張も高まっており、世界の覇権国アメリカとの関係がぎくしゃくしている現状は少々心もとないという風に考えております。
これらを踏まえて2010年のマーケット分析をお願いします。 具体的には年末までのタームで相場の方向性、それから短期的に二番底の可能性ですね。
武者 :
色々と懸念材料はありますが、基本的には年末に向けて株式市場は上昇基調が続くと考えています。
現在は調整の中ですが、この調整は主としてテクニカル調整でしょう。いずれ実態経済の回復がより鮮明になるにつれて再び上昇に戻っていくように思えます。昨年末から、ドバイ、ギリシャなどのソブリン・リスク、オバマ政権の金融制度改革案(ボルカー・ルール)、中国の金融調節、米国住宅市場の一時的足踏みなどの懸念が指摘されています。しかしどれも深刻な経済の回復トレンドを転換させてしまうような大きなマグニチュードのものではないと思います。
証券 :
なるほど。
武者 :
株式市場は世界全体で見れば昨年の3月に底をつけて、そこから7割上昇したわけなので、そこからの1割〜1割5分という調整は起こって当然と思います。ただ相場の性格が変わる転機になっているということには、留意するべきでしょう。これまでの世界経済の株式市場をひっぱってきた最大の理由は流動性だったと思います。昨年の3月までの世界の株式市場が大暴落した原因もやはり流動性の枯渇と人々が恐怖心に囚われて一切リスクを取ろうとしなかったことです。
つまりリスクマネー、流動性が市場から完全に消えてしまった訳ですが、その後の急反発はやはり流動性の復活によるものだったわけです。危機が沈静化するにつれて再び流動性が戻ってきた、且つ主要国の中央銀行による空前の金融緩和がそれを担保した、と言うわけです。
証券 :
なるほど。
武者 :
ただ、流動性の枯渇による下げすぎの調整はもう昨年の年末くらいで終わっています。これから先は過剰流動性をケアしつつ、本当に景気が良くなるのか、また企業収益が上昇してEPSというような株式の実質価値の改善が目に見える形で進んでいくかといったところに移っていくでしょう。ある意味で金融相場から業績相場への大きな転換を前にした調整がおこっていると言えます。
証券 :
現在の一万円前後の停滞はあくまでも上昇トレンドの押し目、調整の範囲であると?

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武者 :
そう考えています。その最大のポイントは、世界経済エンジンであるアメリカ経済がどれだけ力強く回復できるかです。私はアメリカ経済に関して強気に考えております。去年の今頃からアメリカ経済は回復するというふうに主張しておりました。昨年の今頃、アナリストやエコノミストの9割方は、もうアメリカ経済の回復は望めないと言ってたと思いますけど。
証券 :
そうですね。
武者 :
現在でも徐々に回復色が見えてきたとは言っても景気回復はするがとてもスローペースだとか、ちょっと回復の兆しがあってもまた2番底に陥るとか悲観的な見方をする意見もあります。そのような弱気な意見もこれから順調に回復する実態経済を体感するにつれ徐々に弱くなってくると思います。
特に日本においてはアメリカでは考えられないほど弱気論が優勢です。日本のこのアメリカに対する弱気論というのはこれはちょっと問題だと思います。わが国はともかく、海外事情や米国の実情を知らない多くの評論家やメディアがですね、一種の自己実現的にアメリカの不安を掻き立て、それがまた相乗効果で更に一般世論としてアメリカに対する過剰な弱気論を作るという、実態から離れた世論形成がなされていると感じます。
証券 :
なるほど。
武者 :
しかし事実はそうではなくて、アメリカは着実にまた本格的に回復に向かって進んでいると考えられます。その事がおそらく春から夏場にかけて非常に明確に現れ、力強い業績相場にシフトしていくであろうというふうに考えております。
では、アメリカ経済のどこに一体それほどのポジティブな要素があるのかという事について説明しておきますと、一言で言えばアメリカ経済を決定するうえでの3つの分野は、「企業部門」、「家計部門」そして「住宅」です。
この3つの部門の調整はほぼ100%近く完了していると思います。
証券 :
それは強気ですね。
武者 :
いえいえ、事実です。
具体的な事項を申し上げますが、例えば在庫調整を見てみますと、既にやりすぎるという程在庫調整はやりすぎています。在庫投資のGDPに対する比率というのは、過去最低の所まで落ち込んでいるんですね。企業はまだまだ慎重なので、在庫がカラカラになっても本格的な増産に踏み切ろうとしないという事で在庫不足傾向は続くでしょう。そしてよりはっきり言えるのは雇用調整です。
証券 :
はい。
武者 :
これもほぼ完全に終わったと言っていいという状況にあるという事です。既に失業率はピークから少し下落をしておりますけれども、雇用数の減少もほぼ完全に止まったという状況にあると思われます。
そういった動きの背後にある一番大きな要素は、これはアメリカ企業が負担している労働賃金の重荷がかつて無いほど軽いという事です。これを労働分配率、つまり企業が稼いだ利益に対して、労働賃金がどれくらいあるかという比率で見てみますと、この労働分配率は今回のリセッションの特徴的な現象だと思いますけれども、過去最低の水準なんです。ですからこれだけ深刻な不況に直面しながらも企業部門のコストプレッシャーが全く無いというのが今のアメリカの状況です。
その理由は詳しい分析や説明が必要で今は割愛せざるを得ませんが、これだけ労働賃金の負担が小さいという事は、企業は先行き見通しが見えてくればすぐにでも雇用を増やせる状態にあるという事を意味します。
別の見方をすれば企業収益は労働賃金が抑制されているので非常にしっかりしているといえます。
先日から発表になりました米国の第4四半期の企業収益も労働賃金の負担が非常に軽いために順調で、フィナンシャルタイムズあたりでは第4四半期の企業収益は8割がポジティブサプライズだったと報告しております。
まとめますと総じて企業部門が非常にスリムになってきており、このリセッションの中でアメリカの労働部門の生産性がむしろ上昇していることは着目すべき視点です。
もちろんそれは生産調整以上に雇用削減をやったからですので、失業が増えて家計の収入が影響受けたというマイナスの側面もありますが、他方において企業では利益が非常に出やすくなっているとプラスの側面もあるのです。
またもう一つ忘れてはいけない要素は、アメリカの企業がバランスシートです。
識者の中でも「もっとバランスシート調整が必要だ、企業はもっと借金、有利子負債の削減が必要だ」などというような事を言う人もいるんですけど、私はそのようなバランスシート調整が必要なのは、金融部門だけであってその他のアメリカの企業部門は史上空前の金余り状態にあってバランスシートの調整は必要ないと思っています。
考えるとこれは極めて不思議な現象です。
普通景気が悪くなれば売上が落ちて、そして利益が減ると共に資金繰りが困難になってきます。そこで資金の借り入れが必要になってくるというのが通常です。しかし現状ではアメリカ企業空前の資金余剰になってます。
これは企業の営業キャッシュフローの落ち込みはそれ程極端ではなかったのに、設備投資だけが極端に落ち込んだためで、企業の手元にある資金が史上空前の所まで積みあがっているわけです。その原因の説明も紙面の関係で割愛しますが。
ただそこから言える事は、余っているこのお金が必ずどっかに向かって動き出すという事です。
1つは景気が急速に回復すれば設備投資が鋭角的に戻って、そこで金余りが解消される。
2つめの可能性はこの余ったお金が企業買収とか、或いはグローバルな事業展開という事に向けられ、将来のビジネスの布石つくりの投資として使われるということです。これは現実に欧米で食品業界などで起こってきていると思います。
おそらくシリコンバレー辺りでも最先端のハイテク企業が相当買収合戦を繰り広げられていくと思います。
3つめはこの余ったお金は自社株買いといった形でも株式市場に入ってくる可能性があるということです。
何れにしましても、このように幾つかの点を見ただけでもアメリカの企業部門はかつてないほどスリムになっているという事ははっきりと申し上げていい、と思います。
取材日時 2010年2月
次回 >>> アメリカの家計部門について

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